近いうちにいくつか沖縄の貧困をテーマにした記事を書きたいと考えているので、その前に、2010年に書いた「沖縄生活事情」を記録しておきたい。長々と、全文そのまま引用しておく。
沖縄は県民所得全国最下位の県である。
沖縄振興開発事業費で毎年2000億円以上の予算が組まれ、軍用地地主におよそ800億円の土地代が毎年支払われているにも拘らず最下位である。さらに思いやり予算として毎年2000億円以上が米軍にあてられ、間接的ではあるが、米軍及び米兵が沖縄に落とす金があるにも拘らずである。米軍基地問題を語るとき、しばしば「アメとムチ」という言葉が使われるが、アメを口にするのはごく一部の人で、庶民はムチばかり打たれるのである。しかしムチを振り上げるのは米軍だけではない。
【何故県民所得最下位なのか】
一言で言えば、給料が極端に安いからである。大抵の都道府県では、最低賃金で人を雇うことは少ない。求人広告に最低賃金での給与を掲載していたら恥ずかしい限りである。だが沖縄ではそれがまかり通る。しかもこれは沖縄企業に限ったことではない。全国展開している大手運輸業者の沖縄営業所の求人広告を先月目にしたときは、事務員で11万円台、配送員は12万円台であった。時給にすると650円前後、場合によっては最低賃金以下になるかもしれない。
私はこれまで多くの沖縄の経営者と拘ってきた。彼らに機会があるたび「何故もっとスタッフに還元しないのか」と尋ねてみると、返ってくるのは決まって「沖縄は物価が安い」、「そんなことしたら会社がもたない」という言葉である。では彼らの経営する会社は「危ない」のかというと、そんなことはない。少なくとも私が知るこれらの会社は、ここ8年潰れてはいないし、そのほとんどが年商2億円以上である。中にはここ8年で沖縄県内に2店舗から7店舗まで大幅に事業拡大した小売業者もある。しかし給与は変わっていないようである。
「幻想の島 沖縄」の著者大久保氏は「低賃金こそが問題」「沖縄ほど経営者が強い県はない」としているがそのとおりである。同著によれば、沖縄県内の売上高経常利益率は全国平均の1.7倍なのである。特に観光と情報通信は全国平均のおよそ3倍であるから、県全体で見れば、企業の経営状態は悪くないのである。しかし、求人広告には15万円以下の基本給が目立つ。断っておくが、沖縄では年齢にかかわらず、初任給が完全週休二日で18万円以上であれば悪くない条件である。さて、基本給が15万円だとして、昇給が年1回5千円あったとしても、月給が20万円を超えるのは10年後だ。当然のことながら、この給与の中から所得税や健康保険、厚生年金、市民税などが控除されるのだが、残った手取りで生きていくのは独り身でも楽ではない。それでも厚生年金や社会保険に加入していればまだ良い。未加入のままの企業も多いのだ。先ほど挙げた小売業者の場合も、3年ほど前と変わっていなければ、スタッフは20名以上で雇用保険以外は一切未加入である。
最近の若者は働く気力が足りない、とよく言われるが、沖縄の場合はそれもそうだと私は納得できる。家族構成によっては生活保護よりも安い給与で働きたい人がどこにいるだろうか?
この劣悪な雇用条件だと、人は雇われることに馬鹿馬鹿しくなる。であるから「自分で始めよう」とする者が多い。起業も倒産も他県に比べて多いのはこのためである。【沖縄の物価は安いのか?】
残念ながら安いとは思わない。私は沖縄の前には首都圏に暮らしていたが、衣食住、どれを比較しても安くは無い。家賃を東京と比較すると安いと言う人が多いが、東京の通勤圏と比較すること自体が間違いだ。電車30分で銀座や新宿に出られる地域と、車で30分かけて那覇に出られる地域とを比較することがおかしい。生活条件がまるで異なる。ちなみに那覇中心街に30分というと、私の暮らす浦添市くらいだが、各部屋6畳の2DKで家賃5~7万円が相場である。県民の所得を考えてみてもこれは高いと私は感じる。那覇からさらに遠ざかれば安い地域があるのも確かだが、それは各都道府県、田舎は安い。
生活費を語る上で最も解せないのが電気代である。沖縄復帰特別措置法があり、莫大な減税を許されている沖縄電力だが、電気代は全国と比較して最も高いのである。火力発電が99%であるから高額であるのも致し方ないが、減税されている分を沖縄電力は県民に還元していると言う。つまり特別措置法がなくなれば、さらに高くなるのだ。これは、ガソリン、酒類、航空燃料費も同様である。そして私が不安なのは、特別措置法によりガソリン等が他県より安い事実を、知らない沖縄県民が意外にも多いということだ。
次に食費である。大抵の沖縄県民は食費は安いと自負している。地場の野菜や魚介類が安いのは全国どこでも同じなので、比較にはならないのであるが、日本人の主食である米をスーパーで見ると、なるほど確かに安いものが目に入ってくる。5kgで1500円以下である。しかしよく見れば複数原産米である。他県からすると信じられないことであるが、複数原産米とは、コシヒカリやササニシキなど、ブランド米の余り物をブレンドした米だ。であるので、一つ産地のコシヒカリなど「普通の米」は、県外のスーパーと同じ、或いは輸送費のコスト分いくらか高いようである。
沖縄は食費が安いのではなく、「安い物が売られている」と言える。千葉の漁港に揚がるアジほどの大きさしかないホッケや、年中解凍された秋刀魚が魚コーナーに並ぶ光景がそれを物語っている。冷凍された売れ残り秋刀魚が沖縄に流れてきているに違いない。1尾38円など、信じがたい金額がついていることもあるくらいだ。
ただし、これは所得が低いことに対する売る側の企業努力でもある。同時に、移住するまでは気づかされなかったが、本土ではこれだけ「食べ残し」ているのだと思い知らされる。【急速な開発と損なう景観】
私が移住した頃は、那覇市おもろまちがまだ整備されていなかった。糸満市では西崎の開発が終わった程度であったが、この8年で豊見城で大規模な埋め立てがあり、糸満市も市役所移転に伴い大規模な埋め立てが行われた。東海岸でも西原町から与那原町にかけて、東浜と呼ばれる新興住宅地がやはり埋め立てにより建造された。そして那覇市のおもろまちには高層マンションや大型量販店が並び、県や国の重たそうな建造物も出来た。そのほか地域振興や産業支援型の大型建造物や、浦添市のてだこホールや国立劇場おきなわなどが現れた。まさに今、沖縄は箱物ラッシュの過渡期にある。見境なく建造し続けるさまは、本当にここは観光で成り立とうとしている県なのかと目を疑う。地域産業の集まりや、選挙演説などでは「本土に追いつき追い越せ!」という言葉が頻繁に聞かれる。「本土」とは一体日本列島のどの部分を指して言っているのだろうか。
私は仕事柄日本全国多くの都道府県に赴いてきたが、建物と物の多さは、地方の県と比較すると、とっくに追い越していると思う。
沖縄では8人に1人といわれるほど建設業界で働く人口が多い。この理由は本土復帰の歴史とも関連があり、長くなるので詳述を控えるが、建設事業はそのほとんどが昔も今も国からの補助金による公共事業だ。この補助金がなくなれば新たな建設にも歯止めがかかるのであろうが、同時に今あるホールなどの施設の運営もままならなくなるのは必定であり、建設業界も倒産が相次ぎ、さらに失業者が増えるであろう。だから建て続けるのだろうか。何とも言えない悪循環である。そして私が危惧するのは、返還後の普天間である。おもろまちのようにはならないと良いのだが。【挙げればきりが無い沖縄生活事情】
書き出してみるときりが無い。これが正直な感想である。であるので、今回は私個人の視点による生活事情の一部を書き連ね、ここで終いとする。
最後に一言付け加えておく。沖縄には「沖縄のために自分に何か出来るのか?」と考える人が多く存在する。これは素晴らしいことではあるが、同時に、沖縄のために今の利便性を捨てる覚悟も必要となる時期が、すぐそこに迫っているのも事実だ。もっとも、沖縄本島すべてを小さな東京にしてしまいたいのなら話は別だが。