安売りされる沖縄の労働力①

 改めて沖縄の貧困について考えてみると、どうしても「賃金の安さ」が真っ先に浮かぶ。今から9年前に書いた記事「沖縄生活事情」でも所得が低いことを取り上げた。その中で私は、『「幻想の島 沖縄」の著者大久保氏は「低賃金こそが問題」「沖縄ほど経営者が強い県はない」としているがそのとおりである』と書いた。この実感は今も変わらない。むしろ状況は悪くなっているのではないだろうか。

 沖縄県は県外から企業の誘致を積極的に行っているから、WEB関連の業務やコールセンター等を沖縄に開設する大手企業も増えている。数年前、そうした企業の説明会に参加したことがあるのだが、そこで聞かされた言葉に、私は驚愕した。
 説明をしていた役員の男性は「何で沖縄に事務所を開くかというと、ぶっちゃけて言えば人件費が安いからです。東京で人を雇うとバカにならない…」と語っていた。包み隠さず本音を語ることで信頼を得たかったのであろうが、私には逆効果であった。
 この発言は「安く働かせたい」と宣言しているようなものであるから、恐らくまともな昇給は望めない。入社前から「安い給料で働け」という企業に就職することほど愚かなことはない。入社以前に泣き寝入りの状態なのであるから、長く続けられるはずもないだろう。
 しかし、このような企業が多く沖縄に進出してきているのが現状である。大手企業のコールセンターで働いている知人からは、「同じ仕事をしているはずなのに県外の事務所と自分たちとで給料が違う」といった不満が社内にあると聞かされたことがある。
 説明会に話を戻す。役員の話の続きに私はさらに驚かされた。どこまでが本当かは分からないのだが、「人件費が安い地方を探していた時、沖縄県の企業誘致の担当者と話をした。そこで人件費が安いことを耳にした。本社と沖縄営業所との移動代が出るなど、県からの補助もある。『沖縄ってすげぇ!』と思った」というのである。これが本当であれば、沖縄の労働力を安売りしているのは他でもない沖縄である。これが本当ではないにしても、県民の税金から補助金を出している先は「沖縄の労働力を安く買う」企業であることに変わりはない。
 「沖縄ほど経営者が強い県はない」が、それは沖縄の経営者だけではなくなった。確かに、企業誘致をすることで求人倍率は1倍を下回り完全失業率も改善されてはいるが、それは同時に沖縄県民を安く働かせる企業が増えたのだとも言えるだろう。大多数の沖縄県民の生活は決して楽になってはいない…それが私の実感である。

 こうした状況は沖縄だけではないのだろう。7月30日の沖縄タイムスには最低賃金が全国平均901円になるとあるが、東北地方、四国や九州南部の最低賃金を見ると沖縄とほとんど変わらないようである。翌日の琉球新報の記事には、『県内コンビニのオーナーは、最低賃金が26円上がった場合、1カ月当たり4万円以上の人件費が増加すると試算する。「深夜手当はさらに1・25倍の賃金が上乗せされる。経営がギリギリの店舗は大変だろう」と話す』とある。この話からは沖縄県内のコンビニでは「最低賃金、もしくはそれに近い時給で雇っている」ということが見えてくる。そして求人誌を見ると、それはコンビニのような販売スタッフだけではなく、他の職種にも散見される。最低賃金で雇い続けてきた企業や店舗と言うのは、やはり「経営者が強い」のだろう。そして最低賃金が沖縄と同程度の県でも同様なのだろうと想像してしまうのである。

 首都圏に暮らしていた頃の私の感覚は、「最低賃金で雇うなんてありえない」「最低賃金で求人広告を出すなんて恥ずかしい行為だ」というものだった。法が定める最低の基準である。これに近い金額で求人広告を出している企業があれば「この会社は大丈夫なのだろうか?」と思うことだろう。「だろう」としているのは一般的な求人では見たことがなかったからだ。
 一方、人件費削減を念頭に置いている企業側からすれば、ただでさえ最低賃金が高いというのにその金額で雇いにくいとなれば、最低賃金が低く、しかもそれに近い金額で雇える地域に目をつけるのもある意味当然だと言える。
 政府は「働き方改革」の一環として同一労働同一賃金を掲げ、同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、不合理な待遇差を設けることを禁止する法律「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」)を施行した。これは評価出来ることではあるが、地域格差は未だ解消されてはいない。
 安い人件費を求め、沖縄など最低賃金の安い地域に子会社を開く。例えばそれが保険の相談窓口で、他の県でも同じ業務をしている関連会社があれば、同じ系列企業で同じような仕事をしているはずなのに給与が違うということになる。関連企業とはいえ別会社であるから雇用条件が違っていても何も問題はない。そして子会社の上役には本社から出向で来るパターンで、彼らの給与は沖縄の社員には夢のような額なのである。
 対策として「最低賃金の全国一律化」を唱える人もいるけれど、経済界からは強い反発があるだろうし、地方から撤退する企業が相次げば失業率が高くなることも予想される。しかし、真に同一労働同一賃金を目指すのであれば、そうした課題があることも踏まえて、地域格差の解消に取り組むべきではないだろうか。

※このテーマについては近いうちにPart2を執筆します。