前回の記事の続きである。今回はもう少し詳しく沖縄の貧困の現状を考察してみることとする。
国税庁の調査によると、日本人の平均年収は432万円だそうである。では沖縄はいくらなのだろうかと、総務省の統計資料を元に算出された各市町村の数値をざっと見てみる。すると那覇市で317万円、浦添市と宜野湾市で284万円、沖縄市は280万円、うるま市247万円、南城市240万円となっている。最も高いのは北中城村で363万円である(北中城村の年収が高いことの理由は後述する)。ところが、厚労省の調査だと2018年の沖縄県の平均年収は369万円だそうである。県全体の平均年収が、最も高い自治体の平均年収よりも上回っている…何とも奇妙ではあるが、実際に生活している者としては総務省の数値が妥当であると感じる。
そしてこの数値は平均値であるから、中央値はさらに低くなることは容易に想像がつく。日本人の年収の平均値が432万円に対し、中央値はおよそ360万円と言われてもいる。単純にこの割合を沖縄に当てはめれば、市町村によっては中央値が200万円を下回る自治体も存在すると考えられる。
一般的に年収とは税金が引かれる前の総支給額のことである。ここまで記載してきた数値はすべて総支給額だ。年収200万円前後から年金や所得税が引かれた手取りである。生活するにはかなり厳しいはずだ。
本当にそんなに低いのか?そういう疑問が出てきても不思議ではない。
Bloombergに掲載されたノア・スミス氏の記事によると、日本では年収が国民所得の中央値の半分以下の人の割合、つまり相対貧困率は15.7%だという。仮に中央値が360万円だとすれば、6人に1人が180万円以下の所得となる。中央値の値が不正確かも知れないが、平均年収の半分が216万円であるから大きく間違っているとも思えない。
また、内閣府沖縄振興局の平成29年9月の報告「沖縄の子供の貧困に関する現状と取組」によれば、「沖縄における子供の相対的貧困率は 29.9%となっており、全国では七人に一人が貧困状況にあるのに対し、沖縄では三人に一人が貧困状況にある」とある。沖縄の現状が深刻であることは明白である。
では実際に沖縄の求人を見てみると、日本を代表する大手広告代理店の沖縄支社のサイトに中途採用の募集要項が掲載されており、そこにはこうあった。
年収242万円以上
(月給内訳)
基本給16万円+固定残業代4万2000円(超過勤務30時間分)
上記とは別に賞与があるというが、基本給16万円の3か月分の賞与があったとしても年収は290万円である。これが給与形態の下限値であるとしているが、募集要項より大きく上回って採用することは想像しにくい。下限16万円の基本給をいきなり20万円で雇用となれば破格の扱いなのではないだろうか。この企業の株主には大手広告代理店の本社の他、沖縄の主要メディアが名を連ねている。要するに有名企業であり、この条件は沖縄では悪くない方であると私は思う。これ以下の条件で雇用する企業が多いと実感しているので、先ほど挙げた沖縄の平均年収の低さにも頷けてしまうのだ。ただし、この企業の本社社員の年収は日本国内でもトップレベルであることから、前回の記事で述べたようにこれも地域格差の一つであると言える。その社名を聞けば「あの会社の系列なのにこんなに安いの?」と多くの人が驚くことだろう。
さてもう1点、募集要項に「固定残業代」とある。いわゆる「みなし残業代」である。沖縄の求人欄でも急激に増えてきた。数年前どこかのセミナーで、「残業代のトラブルを解消する方法」としてこの「固定残業代」が紹介されていた記憶がある。一人雇うのに月に20万円の支払いが可能だと考えた場合、その20万円の中に残業代も組み込んでしまえばトラブルは起きないというのである。そのためには総額が20万円になるように基本給が下げられる。この場合、雇用する側は残業をさせても支給額が増えないようにしているだけにすぎず、いわば残業代不払いの隠れ蓑でしかない。「残業をしなくても支給される」という労働者側のメリットは実質ないのである。また賞与があったとしても、その査定基準は下げられている基本給とされるケースが多い。
こうした背景には、残業代を支払っていない企業が多いことがあると私は考えている。2年前、那覇市に本店を構える老舗文具店の経営者が、残業代不払いで逮捕されたとの報道があった。沖縄では有名な企業であり、経営状態も悪くはないと思われるが残業代は不払いであった。私が知っている限りでもこうした企業は多く存在する。他にもたくさんあるだろうと思わずにはおれないのである。
結局のところ、「低賃金こそが問題」「沖縄ほど経営者が強い県はない」という結論に達してしまうのであるが、労働力を安売りしているのは他でもない沖縄県民であるとも言える。残業代不払いにしてもそうだが、労働者側が声を上げていく必要がある。今、沖縄の労働者の多くは「沖縄は所得が低いから」と諦めているようにも思える。また、多少羽振りの良い業界で働いている者や高所得者は、低所得者の生活を見て満足しているかのようでもある。諦めと慢心が蔓延っていては何も進展しないだろう。特に諦めからの脱却が必要であり、そのきっかけとなる政策を、各自治体の議員は模索するべきである。
さて北中城村の平均年収が高い理由についてだが、正直よく分からない。2017年の平均年収が287万円でその翌年は363万円である。この急激な上昇の原因が分からない。ただ、北中城村は県内の他の市町村と比べても平均年収は高い方である。その理由の一つとして、高級住宅街のあることが挙げられると思う。北中城には海を見渡せる高台があり高級住宅街となっている。村外から移住した高所得者もいることだろう。
少し前のデータではあるが、総務省発表の「2013年 住宅・土地統計調査」から北中城村の世帯年収割合を見ると、300万円未満の世帯が51%を占めている。これは同じ年の浦添市の割合と同じである。全体的に裕福なのではなく、所得格差が大きいことは間違いないようである。