Production Process

視・2006-4 89×160cm 視・2006-4 89×160cm

数年前から、麻布を木版に張ることをやめ、地塗りもせずに膠を引くだけで制作するようになった。

凸凹のある、しかも布色のままの面は、絵を描くための基底材ではなく岩肌や樹皮に近いものに見える。このような面では1本の線を引くことも限定され、定型を描き秩序立てたグラデーション、コントラストを作り出すことは難しく予め計画して制作することがほ とんど意味のないものとなる。したがって、できるだけ制作の過程を単純化し、画面とどう向き合い関わるのか、その姿勢、意識を明確にすることが求められる。

私は白色絵具を絡ませた筆で、少しずつ触れるようにして制作を始める。この行為の積み重ねによって、画面が新たなる様相を帯びるのを待つが、これは描くとい うことではなく繰り返しである。しかし、ここから薄墨を含ませていく過程では、触れる感覚を持続しながらも何か視ようとする意識が働き始め、描く意識もま た強くなる。

この辺りの境界が不明で、図らずも「描く」ということを根本から問い直す契機となった。

(2008年:秋田英男)