村山由佳のルール

村山由佳という小説家をご存知の方も多いと思う。千葉県鴨川市在住の直木賞作家である。

村山由佳

作品に恋愛小説が多いのが特徴である。もっともJUNPBOOKシリーズの読み物が多いのだから当然といえば当然である。いわゆる少女漫画の活字版のようなものだ。私の最も苦手なジャンルなのだが、村山由佳に限ってはそうでもない。恐らく村山由佳という人間を、私なりに知っているからであろう。

村山由佳は、いわゆる「先生」と呼ばれるタイプの小説家にはなりえない人である。この人柄は「海風通信」というエッセイにも良く表れている。また、このエッセイで、「鴨川に移り住んで良かったと思うことは、何が必要で何が必要でないのか、はっきり解るようになったことだ」、というように述べていることからも、彼女自身、鴨川へ移住する前は、生活に悩みや疑問を感じていて、苦悩していたことが伺えるのである。恋愛小説が苦手な私が、ほとんど抵抗なく作品を読むことが出来るのは、村山由佳が自分の感情に素直な人であるからだと思う。彼女が鴨川で手に入れたのは自然体でいることではないだろうか。

だからこそ過去の自分を振り返る余裕が出てきて、「翼」や「すべての雲は銀の・・・」の2作品を執筆できたのではないかと思う。いずれも、過去の自身を振り返り、肯定することで生れた作品ではなかろうか。この2作品があればこそ、直木賞受賞作「星々の舟」は生れたのであろう。

今、確立しつつある村山由佳の文体には、気取るところが殆ど見られない。読者に媚びるような感も無い。それでいて、自分自身の内面はすらりと書いてしまっているようである。それはそれで、なかなか出来ることではない。恐らく今も、鴨川の農場で、有機栽培の野菜やハーブを育て、時には太平洋を眺めながらの執筆であろうと思う。派手な評価をされることも無いかもしれないが、気取らない自然体が村山由佳のルールだ。貫き通して欲しい。年を重ねて、いつか幸田文のような随筆を書くかもしれない、そう感じさせる作家である。