以前にも書いたが、私は英文科卒業の学士である。今回は英語と米語の違いについて忘れてしまう前にいくつか書きとめておこうと思う。勿論ほとんどが私や周囲の学生の実体験である。
- タイヤのパンク
- 日本大学の文理学部はグラウンドも入れると結構広い。そのため自転車をキャンパス内で使用する学生もいる。ある日、留学生の1人が乗っていた自転車を見つけた体育会系部員が突然まくしたてた。というのもその自転車は彼の物で、数日前に盗まれたものだった。犯人はイギリスからの留学生。さぁ大変だと見ていたが、関西弁でまくしたてていたため留学生にもさっぱり分からなかったようだ。仕方なく近くにいた私が行くと、なんと自転車はパンクしていた。それを見つけた被害者は大いに怒り「修理代よこせ」と怒鳴る。当然の主張だが相手には通じないので私が通訳してみた。私も英文科の学生のはしくれである。パンクをそのままパンクとは言わない。パンクしたタイヤはflat tireである。そのため私は「It's flat.」と切り出したと思う。しかし何と、通じなかったのである。話が噛みあわず、その場は結局退散になってしまった。後で調べたらflatはアメリカでは空気の抜けた…という意味になるが、イギリスではアパートだそうである。私は自転車のタイヤを指差し「アパートだ!」と言っていたのである。ただの馬鹿である。ちなみにイギリスでタイヤがパンクしたときにはI have a puncture。アメリカでアパートは勿論apartmentである。
- 不器量な家庭的
- イギリスで君のアパートは家庭的で居心地いいね」というとYour flat is homely.である。アパートはアメリカでは違う言葉なので、米語にするとYour apartment is homely.と思ったら大間違いである。Homelyは私が最も困惑した単語の一つである。というのも、イギリスでは「快適なもの」に用いるのだが、アメリカでは逆に「醜いもの」に使うのだ。そのため、さきほどの米語版を訳すと「お前の家は汚いな」となる。これを人にあてはめると英語では「家庭的な人」、米語では「不器量な人」となる。特にネイティブが講師の英会話の授業では、講師の出身国をきちんと把握しておく必要がある。何しろ彼らは、イギリス人であれば米語を知らないし、アメリカ人であれば英語を知らないのだ。特に提出した作文で、間違っていないはずなのに点数をくれていなかったら、米語と英語の違いを疑ってみる必要がある。
- ズボンとパンツ
- 英作文のテストで「彼女はズボンばっかりはいている」を英訳しなさいとあったら、何と書くであろうか?ズボンはpantsであるのでShe only wears pants.とするとアメリカでは正解である。イギリスではこの一文は「彼女はいつもパンツ一丁だ」と、とんでもない意味になってしまう。イギリスではズボンはパンツではなくtrousersなのだ。
- 休日
- 休日と言えばholidayである。土曜も日曜も祝日も含めholidayである。とするのはイギリス人だけである。アメリカではholidayはいわゆる祝日のみに用いられる。だから、「私は明日、仕事が休みです」というときにTomorrow is my holiday.とするとアメリカでは通じないのだ。祝日でしかないのでmy holidayという表現自体がすでに有り得ないのである。アメリカでは休日はday offと表現しよう。
- トイレと便器
- 人間糞をしていかないと生きていけないのである。ゆえに、トイレは世界各国の必需品である。さて、便所はイギリスではtoiletである。レストルームは通じないので気をつけよう。逆にアメリカでtoiletと言うと、何と便器になってしまう。初めてアメリカに行ったイギリス人がほとんど陥る米語の罠である。そこではこんなやりとりが行なわれているのだ・・・・(イギリス人)「便器(toilet)どこ?」…(アメリカ人)「便所(restroom)の中だよ」。
- 薬屋と麻薬
- アメリカからの留学生がイギリスに旅行したときの話だ。腹の調子が悪かったので薬局を探していて、付近の人にdrugstoreどこ?と訊いた。そしたら何も教えてくれないどころか、警察を呼ぶなどと言われたらしい。イギリスではdrugstoreは薬局ではなく麻薬の販売店、もしくは売人を指すのだ。イギリスで薬局を探すのならchemist(薬局)と言わねばならない。
- 鳥とヒヨコ
- どちらも実際にあった事件である。まず私のいた研究室にケンブリッジからの研究生が来たとき、彼を歓迎しようと食事に行く最中、彼がLook at the bird!と言ったのである。鳥を見ろ!と言われ我々日本人は空を見たのだが鳥はいない。というのもbirdはイギリスでは女性を指すこともある。彼は和服を着ている女性が珍しく、そう言ったのである。次に、アメリカのプリンストン大学からの留学生がやってきたとき、彼はLook at the chick!と言った。今度はヒヨコだと思っていたら、アメリカでは若い女性を指す言葉でヒヨコを使うことがあるそうだ。因みにそのときのヒヨコは、およそ日本人ではないと思われるほど真っ黒な顔をした女子高生であった。その異様な黒さ加減にさぞかしびっくりしたことであろう。
日本の英語教育は最早、英語ではなく、米語である。アメリカ人も自分たちの言葉はEnglishではなくてAmerican Englishと言うのだ。そろそろ科目名も単なる英語ではなくてAmerican Englishとすべきではないだろうか。逆に英語のままなら米語には目を向けるべきではない。というのも、アメリカかイギリスのどちらか片方に集中したほうが、文化を学ぶ視点からも明らかに効率がよいのである。私としては、中国語か韓国語のどちらか一方の基礎を高校で必修科目とし、これからの英語はすべて豪語(オーストラリア英語)にするのが良いと思うのだが。